「そばがきレシピその一」では、まず基本のそばがきを作りましたね。
続く「そばがきレシピその二」では、そのそばがきをちょっとアレンジして、別の料理に仕立ててみましょう。
最初にご紹介するのは、そばがきの作り方のひとつ、「椀がき」です。
椀にそば粉を入れ、熱湯を勢いよく注いで、しっかりとかき混ぜて練り上げます。
少し粉っぽくて苦手、という方もいらっしゃいますが、そば粉の香りをいちばん素直に味わえるのがこの椀がき。
そば好きにはたまらない、香り立つ一椀です。
よく温めた器にそば粉50gを入れる。器を持つと熱いくらいに温めておくことがポイントです。
あらかじめ水110gを計量しておき、沸騰したらすぐさま椀に注ぎ入れます。(やけどに注意!)
湯を注ぎ終わった状態。注ぎ入れ始めから注ぎ終わりまで3秒です。ここから一気に練り上げていきます。
椀を手でしっかり持ち太い箸で練り上げます。箸を持つ手首は円を描くように動かすと上手く練ることができます。
練り上がった「椀がき」です。箸ですくって口に運べば、素朴で野趣あふれる味わいが楽しめます。
次は、鍋の水がきです。「そばがきレシピその一」では、そば粉1に水1.5の割合で作りました。今回は、そば粉1に対して水2.5の割合で作ります。水は富士山の九合目。
練っているときもやわらかく、手に伝わる抵抗が少ないので、扱いやすい生地です。水の割合を1.5としたそばがきに比べると、生地の肌合いがいっそうなめらかです。
仕上がったそばがき。
そば粉1に対して水2.5のこのそばがきは、水1.5の場合に比べて、より艶やかに仕上がります。食感はふっくらとしてやわらかく、口当たりも軽やかです。
ただし、この柔らかさは好みの分かれるところ。歯ごたえを楽しみたい方には、やや物足りなく感じるかもしれません。
そばがきを作った鍋から、ちぎった生地をそのまま揚げた「そばがき揚げ」です。
無骨でいかつい姿ながら、いかにも野趣にあふれた、そばがきならではの力強さがあります
こちらは、同じそばがき揚げでも、表面にそばの実パフをまぶして揚げたものです。柔らかなパフなので、揚げても固くならず、軽やかなクリスピー感が楽しめます。軽やかな衣が香ばしく、外はサクッと、中はそばがきのもちっとした柔らかさ。二つの食感が心地よく調和します。
「椎茸の傘揚げ」です。石づきを取り除いた椎茸の裏側に、『そば米焼き味噌』(レシピ参照)をのせ、その上からそばがきを包むようにかけて揚げます。
揚げたそばがきを椀種にしました。下地には、温かいそばの汁を出汁でのばして吸い物仕立てに。香ばしいそばがきにやさしい旨味が広がります。鴨肉や鴨つくねを添えれば「鴨汁そばがき」としても格別。季節や素材に合わせて、さまざまな一品に仕立てられます。
「そばがき七輪焼き」です。炭火でじっくり焼き上げたそばがきを、そば汁に味噌を溶き入れた、つけ汁でいただきます。香ばしい風味が日本酒によく合う一品です。ご家庭では炭火の代わりに、フライパンとカセットコンロで手軽に楽しめます。
このそばがきは、二十数年前に作ったものです。粗挽きのそば粉を、そば粉1に対して水3の割合で練り上げました。とても柔らかいとろっとしたそばがきです。
近ごろは、そばがきにそば湯を張る提供スタイルもあまり見かけません。これも、今となってはすでに昔のスタイルなのでしょう。
「皿の上の鴨南そばがき」です。ゆるいゆるいそばがきにオーブンで仕上げたロースト鴨と焼いた葱をのせて。
四十五年ほど前に作っていたそばがきを、ふと思い出すことがあります。
注文が入ると、粉を鍋に入れ、そば釜から湯を汲んで、すぐに練る。
そんな慌ただしい仕事でした。
私はよく失敗して、つい柔らかく作ってしまうことが度々ありました。
「お前の作ったのは、そばがきじゃねぇ。そば糊だ!」
叱られるたびに、悔しさもあったけれど、でもどこか可笑しくもありました。
今になって思えば、嗜好の変化というものでしょうか。
あの頃に比べると、そばがきは次第に柔らかく作られるようになりました。
もしかすると、あの頃の“失敗”は、時代をほんの少し先取りしていたのかもしれません。
著者紹介
蕎麦料理研究家 永山塾主宰
永山 寛康
<プロフィール>
1957年(昭和32年)生まれ。
21歳でそば打ちの世界に入る。名人と名高い片倉康雄・英晴父子に師事し、そば打ちの基本を学ぶ。『西神田 一茶庵』『日本橋三越 一茶庵』に従事した後、『立川 一茶庵』で店長を務める。その後、手打ちそば教室の主任講師などを努め、2004年より「永山塾」を開塾。長年研鑚を積んだそば技術やそば料理の技術を多くの人に教える。
感情豊かなそば打ちやそば料理の指導に、プロアマ問わずファンは多い。近年はそば関連企業と連携して、開業希望者やそば店等への技術指導にも活躍中。