『そばっ喰い基礎講座』No.1/王者の悲しみ「茶そば」

しょうじょう寺のタヌキ囃子の様なメロディが聞こえてきます。🎶〜♪〜♫

🎶 噛む噛むエブリバディ〜 みんなで一緒ににそば食べよ〜 

 つ、つ、月見そばより〜 オイラはたん、たん、タヌキそば〜 🎶

「みなさんこんにちは、お元気でしたか!さぁ、いよいよこれから楽しい楽しい、そばっ喰い基礎講座の時間が始まります」
「この講座はただただ、そばを食べる事が好き、けれどまだ、そばの事はあまり知らないし、わかんなぁ〜いとおっしゃる、純粋無垢な心をお持ちのそばっ喰い初心者の方々に大変喜ばれ、大好評を頂いております、あっいゃ、そうなる予定であります」

「さて、第一回目は、変わりそばの『茶そば』をテーマにして、知られざるはずが、今やみんな知っている逸話を交えての、楽しく役に立ったり、立たなかったりのお話をしていきます」

まず、一番上の写真をご覧下さい。

こちらは、右上から時計回りに「さらしな」「芥子切り」「レモン切り」「桜花切り」真ん中はさらしなと茶そばを重ね合わせて打った「昼夜切り」です。

さらしなそば

芥子切り

レモン切り

桜花切り

昼夜切り

変わりそばはこの他にも、それはそれはもう、沢山あります。

種々色々ある変わりそば。トップバッターは、変わりそばを何より広く世に知らしめた、栄光の覇者であり、変わりそばの王者『茶そば』・別名『抹茶切り』の登場です。

茶そばは、変わりそばのひとつでありますが、お馴染みといえば、余りにもお馴染み過ぎて、「そばっ喰い初心者の方」でも食べたことの無い方のほうが、少ないかもしれません。スーパーマーケットの棚にも、家庭で食べる乾麺でも、和食店の〆そばとして、身近な存在です。以前は、海外発日本着の国際線機内食でも、「Welcome to Japan」的なお・も・て・な・し・として、良く提供されていました。

しかし、この馴染み過ぎたと言う事が、変わりそばの覇者・王者『茶そば』の悲劇の始まりなのです。

さて、みなさんにお聞きします。正直に答えて下さいね。

「質問1、茶そばを食べた事がありますか?」
「質問2、その茶そばはお茶の香りが良くて美味しかったですか?」

「質問3、いつも、または時々は食べたいと思いますか?」

はい、聞こえて来ました、聞こえて来ましたよ。

私の心に聞こえて来た、答えを要約して、十把一絡げに致しますれば、こんな感じです。

「良く食べる機会はありますね、ただ、自分から注文したわけではないけれど」
「お茶の香り?あれ緑色しているだけでしょう」
「そう言えば、少しお茶っぽかったかしら、あまり感じなかった気がするわ」
「特に食べたいとかは、思ったこともない」
「そばつゆと茶そばって合わない感じ、そう思うの私だけではないでしょ」
「食事の〆に出てくるよね、それくらいのイメージしかないな」

 確かに、こんな声が聞こえました。何か、茶そば様がかわいそうになりますね。

ここからは、「茶そばの生地にさらしな粉」を使う場合の話をしましょう。
さらしな粉生地の茶そばには、市販の茶そばには無い緑色の品格と透明感があります。
抹茶はそば粉とつなぎの総量に対して、3%を目安に使います。1kgのそばに30gの抹茶です。加工用の抹茶でグラム6〜8円。お点前用の抹茶ならグラム20円以上はしますから、変わりそばの材料としては、かなり高価です。そば粉の粒子よりさらに微細粒の抹茶は、そばの繋がりをさまたげ、非常に打ちにくく切れ易い、難易度の高いそば打ちをする事になります。
また、そば茹で作業は、繊細なそば故に慎重に行わなければいけません。全てにとても、気づかいが必要です。

他の変わりそばに比べて、格段に神経を使う茶そば。それなのに珍しがられず、さらに、ありがたがられる事が少ない茶そば。悲劇の茶そば。

「ハムレット」「オセロ」「リア王」「マクベス」シェークスピアの四大悲劇。

全てが覇者と王の物語。覇者と王には、悲劇がつきまとう定めがある様です。

日々、変わりそばを打つお店では、茶そばを打つ時は悩むものです。
労多くして、原価がかかりますからね。余ったらどうしようかと悩んだりします。
「打つべきか、打たざるべきか、それが問題だ
あ〜これ、やっぱり悲劇ですね。

緑色の変わりそばは、茶そばの他にも数多くあります。
こちらは、そばでは無く笹の粉末を使った「笹切り」のうどん。次は、蓬の「草切り」。茶そばに比べると色がくすみます。
以前、店で若い衆三人が、一色ずつの変わりそばを日替わりで打っていた事があり、それぞれが抹茶・蓬・青海苔で作ってしまいました。緑だらけの三色そば!笑えなかったですけれど、麻雀なら「緑一色(リューイーソ)」で役満。笑って済ませました。
同じ緑でも、色合いが異なり、やはり茶そばの緑は王様の高貴さがありますね。

茶そばは「そば料理」に使用すると、その高貴さが料理の品格を高めてくれます。これは、他の変わりそばに比べて、群を抜いています。
さすがに、王者の貫禄と言うところでしょう。
○真砂和え
たらこをほぐして熱盛りの茶そばに和えました。

○笹身とそば芽の甘酢仕立て 

○そば寿司 揚巻き

さて、第一回目は「王者の孤独と悲しみ・茶そば」を学びました。いかがでしたか?知らず知らずのうちに、楽しく役に立ったり、立たなかったりしましたでしょうか。それでは、みなさん。また、次回の『そばっ喰い基礎講座』でお会いしましょう。
しょうじょう寺のタヌキ囃子の様なメロディが聞こえてきました。🎶〜♪〜♫
🎶 噛む噛むエブリバディ〜 みんなで一緒ににそば食べよ〜 

 つ、つ、月見そばより〜 オイラはたん、たん、タヌキそば〜 🎶

著者紹介

蕎麦料理研究家 永山塾主宰
永山 寛康

<プロフィール>
1957年(昭和32年)生まれ。
21歳でそば打ちの世界に入る。名人と名高い片倉康雄・英晴父子に師事し、そば打ちの基本を学ぶ。『西神田 一茶庵』『日本橋三越 一茶庵』に従事した後、『立川 一茶庵』で店長を務める。その後、手打ちそば教室の主任講師などを努め、2004年より「永山塾」を開塾。長年研鑚を積んだそば技術やそば料理の技術を多くの人に教える。

感情豊かなそば打ちやそば料理の指導に、プロアマ問わずファンは多い。近年はそば関連企業と連携して、開業希望者やそば店等への技術指導にも活躍中。

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