変わりそば『桜切り』/桜の花と葉で春の競演・そばっ喰い基礎講座No.5

しょうじょう寺のタヌキ囃子の様なメロディが聞こえてきます。🎶〜♪〜♫
🎶 噛む噛むエブリバディ〜 みんなで一緒ににそば食べよ〜 

 つ、つ、月見そばより〜 オイラはたん、たん、タヌキそば〜 🎶

「みなさんこんにちは、久しぶりですお元気でしたか!さぁ、いよいよこれから楽しい楽しい、そばっ喰い基礎講座の時間が始まります」

「世の中は三日見ぬ間の桜かな」。江戸中期の俳人大島蓼太の作。江戸時代後期に刊行された江戸の地誌、絵入りの名所案内『江戸名所図絵』。その中、大井来福寺の図に記されています。桜になぞらえて世の移り変わりの早さと無常を読んだ句。有名な句です。そう、確かに桜は三日見ないとあっという間に咲いて、あっという間に散ってしまう散り際の潔さ。言い古された表現ですが、日本人の心の琴線に触れると言う言葉が、桜ほど似合うものは無いでしょう。

さて、桜のそばの話です。『桜切り』は、この二十年くらいの間に店々で売り出されるようになったと思います。確か私が初めて打ったのが、三十年ほど前だったと記憶しています。当時、『九段のI庵』店長だったHさんが、「千鳥ヶ淵の桜の時期に、この桜切りがよく出るんですよ」と桜切りの話をしていて、桜切りの存在を知らなかった私に、桜の葉を打ち込んだそばを教えてくれたのです。

営業的に売る期間が短いそばです。けれども逆に珍しさもあり、変わりそばの中ではよく出てくれる存在。お馴染みになったのはファミレスチェーンで季節物として売り出した事も一因だったようです。この桜切りの作り方には、桜の打ち込み方が様々あります。そこで『桜葉』と『桜花』を少しばかり取り上げてみる事にします。お店で食べる桜切りのそばは、こんな風に作っているのですよと、ちょっとご参考までの桜切りの仕込み四態です。

先ずは、『桜花(おうか)切り』です。市販の八重桜の花の塩漬けの塩を水で流し、しばらく水に漬けてさらに塩分を除きます。

刻んでから、キッチンペーパー等で水気を絞ります。打ち込むそばは予め桜花の水分を計算に入れてやや固めに仕上げておきます。桜花切りは桜の香りよりも、ほのかな桜色を楽しみたいそばです。

こちらは、『桜葉切り』です。主に大島桜の葉を塩漬けにした加工品です。打ち込む粉の量1kgに対して『桜葉』30〜40枚を加えます。水に漬けて塩抜きをしていきます。花も葉もこの塩抜きの加減が重要で、塩を抜き過ぎると香りも薄くなってしまいますので、気をつけながら進めます。舐めてみて少し塩気を感じる位が目安です。

適度に塩が抜けたら、葉の葉脈(軸)を切り取ります。

巻いて小口からザクザクと切っていきます。

さらにみじん切りにします。桜の香りがいっぱいに広がります。キッチンペーパー等で水気を絞ります。

打ち込むそばは桜花の時と同じように、予め水分を計算に入れてやや固めに仕上げておきます。一気に加えると混ざりにくいので、ここは丁寧に2回に分けて半分ずつ加えていきます。

『桜花』と『桜葉』の生地です。打ち込む粒子形状が大きいので、若干切れやすい傾向があります。

こちらは、桜葉パウダーと桜花のフレーク。これは便利です。共に多少塩気がありますから、加える量は要注意です。香りは強いので入れ過ぎないようにします。

桜花はフレーク状。キューキューと生地の水分を吸いますから、水を足して生地の固さを調節します。香りはほんのりと香るくらいです。

こちらは桜葉パウダー。パウダーを加える変わりそばの御常法で適宜水分を加えます。

桜花切り。

桜葉切り。

練り込む前に食紅を差して薄い桜色に仕上げる事もあります。このそばは色気もない桜葉切りですけれど、これでも充分に香りがあります。

変わりそばはあまり食べる機会もないし、そば店のお品書きの中に見かけることもあまりないとおっしゃる方は多いです。けれど、この桜切りに限っては近年よく目にします。この三十年の間に、桜切りは広く知られるようになり、今やすっかり馴染みの一番売れる変わりそばになりました。「世の中は三十年過ぎたる桜切り」というところですか。ただ最近、私は桜の花や葉をそばに打ち込まず、普通のそばをほんの一口だけ桜の葉に包んで、桜の香りがそばに移った位の桜そばが良いかなと思います。長命寺の桜餅のようにしっとりと香る桜の香は如何でしょう。

さくらさくらは弥生の空なのか、野山も里なのか。いずれにしてもやはり日本人は桜が好きなのですね。

さて、第五回目は「桜切りそば」でした。いかがでしたか?知らず知らずのうちに、楽しく役に立ったり、立たなかったりしましたでしょうか。それでは、みなさん。また、次回の『そばっ喰い基礎講座』でお会いしましょう。
しょうじょう寺のタヌキ囃子の様なメロディが聞こえてきました。🎶〜♪〜♫
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著者紹介

蕎麦料理研究家 永山塾主宰
永山 寛康

<プロフィール>
1957年(昭和32年)生まれ。
21歳でそば打ちの世界に入る。名人と名高い片倉康雄・英晴父子に師事し、そば打ちの基本を学ぶ。『西神田 一茶庵』『日本橋三越 一茶庵』に従事した後、『立川 一茶庵』で店長を務める。その後、手打ちそば教室の主任講師などを努め、2004年より「永山塾」を開塾。長年研鑚を積んだそば技術やそば料理の技術を多くの人に教える。

感情豊かなそば打ちやそば料理の指導に、プロアマ問わずファンは多い。近年はそば関連企業と連携して、開業希望者やそば店等への技術指導にも活躍中。

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